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賢治はそれに一瞬見とれて一歩後ずさると、トン、と後ろの壁にぶつかった。
「――え?か、壁!?」
驚いて身を翻し、手で触って感触を確かめる。
石の壁のように冷たくひんやりとしていて、木の壁のように触り心地がいい。
軽く叩いてみると、まるで楽器の鉄琴を叩いたような音が辺り一面に響いた。
「偶然みたいね」
密がボソリと言った。
そして天の川のように輝く銀色の長髪を揺らしながら立ち上がると、一歩踏み出す。
すると次の瞬間、賢治の首筋に手が伸び、スッと切り傷が入った。
混乱していた賢治の頭が一気に冴え、視線だけ密に向けると、密は微笑んでいた。
「な……なんだよ」
「何って?ただ私は久しぶりのお客さんをどうしようか考えてるだけよ」
たらりと血が賢治の首筋を、そして密の爪先から手首へと向かって垂れていく。
密は楽しそうに笑いながら、傷口にもう少しだけ力をこめた。
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