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【ブログ】
世間にはすっかり定着した言葉だが、まだあたしには新鮮に感じる。
毎日、毎時間、毎分ごとに新しい情報や評論が流れ出て、またそれに真偽や善し悪しの論争が毎分ごとに繰り広げられる。
その世界で、目を引く記事を見つけたのは、まだ半年前の話。
セブンスターが切れて、コンビニへ出向いた時だったと記憶している。
クレイサスの財布に家の鍵を指にはめて、ベルトのないサンダルをつっかけ歩いていた。
その時に、ケータイが震えたんだった。
短い振動音が3回、それの単調な繰り返し。すぐに友人のものだと分かった。
「もしもし、昼間のメール見てくれた?」
開口一番、彼女はそう問いかけた。
――そんなものは来ていない。
今のご時世、少なからずケータイ依存しているものだ、メールにはすぐ気づく。
電話口の彼女は、酒でも入っているのだろうか、やたらと陽気で大声でまくし立てる。
「何よぉ、後で送って、見るから。そのメールがどうかした?」
気だるく言葉を返すのは、ご愛敬ということにしていただきたい。
シラフで煙草の切れたあたしには、到底酒のノリには付いて行けそうもないのだから。
「あたしブログ始めたから!だから見てね!」
それだけ言うと、陽気な声はプツリと途切れ、機械音が流れた。
自分勝手とは、こういうことを言うのだろうか――。
耳に当てたそれを慣れた手付きで閉じ、あたしは300円で買える嗜好品の一本に口をつけてポケットをまさぐる。
チッ、ライターを忘れてきたや。
あたしは唇に貼り付いた煙草をそのままに、小走りで家に向かった。
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