きなこ誕生

3/6
130人が本棚に入れています
本棚に追加
/255ページ
【ブログ】 世間にはすっかり定着した言葉だが、まだあたしには新鮮に感じる。 毎日、毎時間、毎分ごとに新しい情報や評論が流れ出て、またそれに真偽や善し悪しの論争が毎分ごとに繰り広げられる。 その世界で、目を引く記事を見つけたのは、まだ半年前の話。 セブンスターが切れて、コンビニへ出向いた時だったと記憶している。 クレイサスの財布に家の鍵を指にはめて、ベルトのないサンダルをつっかけ歩いていた。 その時に、ケータイが震えたんだった。 短い振動音が3回、それの単調な繰り返し。すぐに友人のものだと分かった。 「もしもし、昼間のメール見てくれた?」 開口一番、彼女はそう問いかけた。 ――そんなものは来ていない。 今のご時世、少なからずケータイ依存しているものだ、メールにはすぐ気づく。 電話口の彼女は、酒でも入っているのだろうか、やたらと陽気で大声でまくし立てる。 「何よぉ、後で送って、見るから。そのメールがどうかした?」 気だるく言葉を返すのは、ご愛敬ということにしていただきたい。 シラフで煙草の切れたあたしには、到底酒のノリには付いて行けそうもないのだから。 「あたしブログ始めたから!だから見てね!」 それだけ言うと、陽気な声はプツリと途切れ、機械音が流れた。 自分勝手とは、こういうことを言うのだろうか――。 耳に当てたそれを慣れた手付きで閉じ、あたしは300円で買える嗜好品の一本に口をつけてポケットをまさぐる。 チッ、ライターを忘れてきたや。 あたしは唇に貼り付いた煙草をそのままに、小走りで家に向かった。
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!