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家に入るなり、あたしは唇の皮を剥がさないようにそっと煙草を外した。
痛いのは嫌いだから。
ピンク色の100円ライターをカチリと鳴らす。
一口目は吸わずに吐き出す。そして大きく煙を吸い込んで息を止めるのが好きだ。
そうやってベッドに座り、ぼうっと数口つけていると、またケータイが震えだした。
ああ、彼女からだろう。
灰を落とした煙草を口にくわえ、冷蔵庫へと歩み寄る。
独り暮らしにしては大きく、自分の肩程もある扉を開けると、中には数本の缶が転がっており、その中から一本を取り出して再びベッドに座った。
ケータイのメールには、URLと呼ばれる英数字の羅列が並ぶ。
あたしはあぐらに挟んだビールのプルタブを起した。
プシュリ、小気味良い音が響く。
煙草を置いて、とりあえずそのURLにジャンプしてみることにした。
喉にくる炭酸が痛ぇなぁ。
矛盾はしていない。血の出る痛みが嫌いなだけだ、ビールの炭酸は心地がいい。
『朧月夜の小部屋』
薄いブルーの画面に黄色い丸が飛び交っては、タイトルの回りを彩る。
美人で秀才の朧月夜の名を語るとは、天国の光源氏も安らかに眠ってなどいられないだろう、怨念とか降りかかったら面白いのに……。
――ほう。
あたしは初めて見る友達のブログを、興味深く思った。
毎日淡々と終わる生活を、自ら楽しもうとする彼女。
その積極性が良く見える。
初めての記事なのだろうが、沢山のコメントが来ている。
ニックネーム、またはハンドルネームと言うのだろうか、数々の名前が並ぶ。
アキ姫、麒麟侍、ルーク@、チェリシュ、大魔王……。
その中に一人、自分のブログのであろうURLを張り付けている男がいた。
――コメント書いておいて宣伝かよ。
あたしはそんな自意識過剰な奴が好きじゃない。
そんなに宣伝するほど面白いのか、見てやろうじゃねえか。
あたしは、何気なくそのURLをクリックした。
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