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その年は飢饉に見舞われた。それでも払うべき年貢の取り立てはいつものように厳しく、その日その日をようやく暮らす人たち。
私は灯に背を向け外に出た。外は冬の気配が感じられ、凍った月に照らされた息が白く散る。
「行かないでおくんなせぇ……」
君が戸口で叫ぶ。愛でても愛でてもまだたりない我が子はもう夢の中。
「心配すんな。たんまり稼いで楽させてやるから」
「お金はいらないでよ……」
今年の収穫だけではとても冬は越せず、彼女は寝る間を惜しんで籠作りや機織りをしたがつらい生活に変わりない。少しでも食料の蓄えを……と山にはいれば皆、考えることは同じ。山は土がむき出しになり、誰も根すら残してはくれなかった。
だからこそ今、都に行き、持ちきれないほどの錦抱えて帰ろうと誓ったのだ。
「そんなものいらない。ただ添い遂げられれば私は十分よ。……だから……」
心が揺れる。
そばにいられればどれだけいいだろう。が、そんな言葉や思いを噛みつぶす。
「必ず帰ってくるよ……」
「あんたぁー!」
家からだいぶ離れたのにまだ君の声がこだまする。
地には同じ想いを秘めた数多の影。
空には皓皓と冴える月。
何を願うだろう。
何を祈るだろう。
同じ空の下で愛するものたちが笑顔で待っていてくれるよう。
[終]
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