第一章、「姫と騎士と異世界」

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<わぁぁぁぁあ!!!!> 体育館の灯りが消えた瞬間、体育館中に歓声が巻き起こった。 <きゃぁぁあ!由美先輩よー!!由美先輩、カッコいいー!!!> 舞台を隠した赤い段幕に照明が当てられ、男装した由美が照らし出される。 あの短時間で、これほどの男前に変装出来るのが由美の得意分野だ。 「あぁ、私は恋をした…叶わぬ恋。これほどまでに人を愛する事など考えもしなかった…あぁ、愛しい人よ」 ロミオの台詞を、何処から出して居るのかも分からない低い声で言う由美… 体育館中に響いて居た歓声は、一瞬にして凍り付いた。 「叶わぬ恋、君は貴族の娘…私は貧しい農民…叶わぬ恋。分かって居る!こんな恋、あぁ…君を愛せば愛する程に苦しくなる!こんなに、こんなに…胸が張り裂けんばかりだ!!どうか、君に一目で良いから会いたい…今夜も君に」 舞台から、観客に向かって熱っぽく台詞を語ると… 観客の中から黄色い歓声を上げて手を振る者がチラホラとうかがえ、由美は優雅にステップでも踏むように舞台の真ん中に歩いて行く。 そして、定番の台詞を体育館中に響き渡るような大声で威勢良く言い放つ。 「ああ、愛しのジュリエェェェェット!!!!!!」 舞台の赤い段幕が、ゆっくりと上がって行く。 舞台のセットは、貴族の庭園をイメージしたような煌びやかさ… 花が咲き乱れ、柔らかな若葉が生い茂るイラストが描かれた背景の中に小さな窓が。 「あぁ、愛しのジュリエット!どうか顔を覗かせておくれ!!」 ロミオが言う。 と… <うぉぉぉ!!!!姫ぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!> 観客中から、の太い男の歓声が上がり、体育館が熱気に包まれた。 「シーーーー!!そんなに大きな声を出したら、ジュリエットが出て来なくなるぞ!!」
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