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言原はまくし立てると、さっさと会議室を出ていった。
この場に紛れ込む、手紙の差出人はほくそ笑んでいた。
(計画実行だな…)
その『計画』を言原はまだ知らない。知っていたら、この会議はまだ続いていただろう。
「…仕方ない。とにかく、解散としますか」
炎海が立ち上がった。
「…そうですね」
中込が腑に落ちない様子でそう言ったところで、会議室の教師達は全員、続々と部屋を出始めた。
場面は教室に戻る。
さっきとなんら変わりないが、一つ違うのは、一人の男子生徒が息も絶え絶えに机に突っ伏していることだった。
「…変わらないよねー、あんたは」
江摩がクスクスと笑った。
「…そうかよ」
そう答える正彦は非常に疲れていた。全力で走ったからに他ならない。
そこへ、
「おはよう、遅れてすまないな」
担任の増本が入ってきた。
「…担任、増本先生なのか?」
正彦は右斜め前にいる江摩に聞いた。
「…あんた、クラス分け見てきたんじゃないの?」
江摩が怪訝な目を向ける。
「…いーや、見てない」
「じゃあ、なんで四組って分かったの?」
江摩が聞いた。
「空いてる席だよ」
「空いてる席?」
「そう。クラス替えの初日は名前順に座るだろ?」
「うんうん」
江摩が相づちを入れる。
「んで、他のクラスは一番後ろの席が空いてるのがほとんどだった」
「あっ、そうか…」
「分かった?」
正彦が楽しそうに笑う。
「一列五席で、上沼の『か』の六人後ろが、もう『に』まできてるのはさすがに怪しんだけど、教室の中程の席が空いてたから、この四組が俺のクラスだと思ったのさ」
いつの間にか、正彦の息は整っていた。
「…でもさ」
「んっ?」
江摩は何か納得しかねている感じだった。
「遅刻してるのはあんただけで、他のクラスの真ん中辺りの席は空いてなかったんじゃ…」
「…それは言わないでくれ」
正彦の笑顔が少し引きつった。図星だった。
「ずいぶん楽しそうだな、上沼、西野…」
江摩は自分の後ろから殺気を感じた。
恐る恐る振り返る。
「あっ、増本先生…」
江摩の顔も引きつった。
「返事しないからおかしいなと思ったらお前達は…。先生を無視してるんじゃない」
増本は呆れ気味だった。
「すいません…」
二人同時に謝った。
「まったく。じゃあ、上沼!」
「あっ、はい」
「よし。次!」
江摩にしっかり挨拶させると、増本は次の人の名前を呼び始めた。
「…さい先悪いな」
正彦が気楽に笑っていた。
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