第一楽章 すべての始まり

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「あっ、はい分かりました」 増本の指示に浅美は快活に答えた。  彼女は席に向かおうとしたのだが、 「わきゃ!」 第一歩目を踏み出そうとした左足が教卓の足に引っ掛かり、派手に転んだ。 「あいたたた…」 浅美はゆっくりと立ち上がった。 「…平気か、藤山?」 増本が少し困り気味に言った。  正彦と江摩が、いやクラスメイト全員が、 「ド天然…」 ぼそりと呟いた。 無論、三十九人の呟きは浅美の耳に届いた。 「むー」 耳まで真っ赤になった浅美は、教室の人間達を見渡すと息を大きく吸って、 「私、天然じゃありませんから!」 顔が真っ赤のまま言った。  そんな彼女の叫びむなしく、 (いや、明らか天然…) クラスの意見は一致した。  その頃、一年一組では、ある生徒が自己紹介していた。 「藤山剣路です。みんな仲良くしてくださーい」 浅美の弟の剣路だった。姉と違って、彼は普通に受験して合格していた。  ちなみに、峰山高校の偏差値は平均より少し高い。  容姿は童顔。目が大きく、小顔。クラスの女子何人からかは既に、 「かわいー」 と、ボソボソと言われていた。  髪はワックスで適度にはねている。制服は第二ボタンまで開けているが、怖さわなく、むしろ幼い感じが増していた。 「はい、よろしくね藤山君。男子はひがまないことー。はい次」 剣路のクラスの担任である松本が、次の子にふった。  女子はまだあれこれと話していたが。 「さて、姉さんは大丈夫かな…」 席についた剣路はポツリと言った。天然な姉を心配しての発言だったが、残念ながらもう浅美は転んだ後だった。  最後の子の紹介が終わり、松本のあいさつも済むと、体育館への移動指示がでた。  全員ぐだぐだと向かいだした。場所は合格発表の時に知らされていた。  松本も、 「できるだけ、早くね」 と言いつつ、のんびりと生徒達が出ていくのを見ていた。 「あれ?先生は行かないんですか?」 教卓の所から動かない松本に、剣路は尋ねた。 「うん。私はみんなが出てから、最後に教室に鍵をかけなきゃいけないから」 「ああ、なるほど」 剣路は納得すると、クラスメイトに続いて教室を出ていった。尻のポケットに財布があった。  一方、二年四組でも移動が始まっていた。 「ほら、移動だよ正彦」 江摩が声をかける。  正彦は配布された提出物の説明中に、がっつり寝ていた。 「むあ…?」
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