貧乏神に

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その頃の私にはその光景が不思議でたまらなかった。            ヤクザが父親に、「兄貴、すんません。今月利子だけでもお願いしますわ。」           ヤクザが父親に頭を下げている。 なんかおかしかった。            私の父親は、その世界では昔かなり有名であったらしく、そのせいもあって貸したほうのヤクザも強く言えなかったみたいである。            ある日、そんな父親がついにヤクザに連れていかれた。            母親が珍しくおどおどしている。            しかし、私達兄弟は気にしていない。普段から家にいなかった父親が連れていかれてもいつものことだと思っていたからで、            父親が家にいないほうが平和で内心嬉しかった。            しかし、貧乏神の父親はヤクザの車で送ってもらい、余裕で帰ってきた。           おまけにこう言ったのを覚えている。            「あのくそガキども、わしをなめくさりやがって、借金チャラにしてきたった。」 そう言った父親がなんかかっこよく見えたのは錯覚だったのだろうか。
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