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朱鳥紳士(あかとり しんし)は受験勉強とやらにはそれほど打ち込まず、かと言って部活に青春を注ぎ込む訳でも無く。
将来の夢はもとより志望校もろくに決めない内に、何の気無しに受験した自宅から三駅の県立高校に偶然合格。
そうして丁度、桜の花びらが散り切った頃に高校生となった。
出世街道をひた走る父に、高学歴にして多芸な姉。
それを支える良妻賢母を絵に描いたような母に囲まれながら、紳士はただ漠然と与えられた時間を潰していく毎日を送っていた。
そうやって春も夏もいつの間にか通り過ぎ、残暑すらついに影を潜め出した頃のこと。
まだ日の高い内に、学校の最寄り駅へと続く活気のない商店街をゆっくりゆっくり進む紳士。
ふと、その中で派手な電飾をひけらかすパチンコ屋とくたびれたラーメン屋の間に、日の光を反射して光を放つ何かが目に留まった。
(あれ……あのこかな)
親をなくした子猫がこの辺りによく現れるのは有名な話しだった。
紳士も毎日のようにその姿を見かけ、弁当の残りを分けてやることがある。
茶色いトラの、なんとなく寂しそうな子猫。
小さな声で鳴き、与えたものを食べるとそそくさと町の隙間へ姿を消してしまう、愛想のない子猫。
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