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その浮世離れした美しさに手を震わせながら、大切に引き寄せる。
間近で見詰めた不思議な花びらは、紳士の眼前でいよいよ七色に輝き、刹那の間に少年の心を虜にしてしまった。
(すごいものを見つけたぞ!)
心を躍らせ、紳士は再び走り出す。
それはこれまで曇ることもなかったが、晴れることも決してなかった少年の日常に、燦然とした輝きが放たれた瞬間だった。
父のような社会的地位もなく、姉のような才能もない。
母のような暖かな人柄も持たずに、恵まれた家族に囲まれた中で一人、暗黙の負い目を感じていた紳士。
その心に勇気が宿った気分になり、丁寧に制服の胸ポケットへ忍ばせる。
(きっとまだ誰も知らないぞ)
何の才能も持たない自分にも、こんなにも素敵なものを手に入れることが出来たという喜びで、紳士の心は幸福に満たされた。
それから後、どうやって自宅の部屋まで帰ったのかを、紳士はあまり覚えていない。
ただ何度も何度も胸のポケットから輝かしい宝物を見遣っていたことだけは鮮明に残り、ふと我に返った時には、既に机の引き出しにその花びらを仕舞おうとしていた。
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