序章1:『目醒めの人』

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(今日は記念の日だ。僕が勇気を見つけた、記念日にしよう) すっかり高揚した気分に自ら拍車をかける。 「紳士ちゃん、お夕飯だよ」 不意に、部屋の外から優しい声が届いた。 母だ。 (これは秘密にするんだ) 反射的に、紳士は今日のことを一切の秘密にする誓いを立てた。 まだこれが、どんなものなのか解らない間は誰にも知られたくない。 ただ綺麗なだけでは、その時だけで終わってしまう。 花びらのことを調べ、正体を突き止めてからならば、考えて見ようと心を決める。 少年が一番に恐れるのは、家族に見せた時、あぁ、これは何々の花びらだね。よく見つけたね、これは珍しい、といった反応をされることだ。 皆が紳士を認めようと放つその言葉が、自分の無知を暗示するかのように深く胸に突き刺さる。 今までも繰り返して来たそれを、この花びらで味わうのは何としても避けたかった。
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