序章1:『目醒めの人』

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視線が定まらないまま、机の引き出しをそっと開けてみる。 そこには確かに、帰り道で見つけた美しい花びらがひっそりと眠っていた。 太陽がその姿を隠した今の時間になっても、ほのかに虹色を浮かべているその姿にしばらく魅入られる紳士。 もっと傍で見ようと手を伸ばそうとしたその時、部屋の扉越しにルームシューズが床をつく音を耳にし、慌てて机の引き出しを閉める。 紳士はおもむろに部屋の扉まで歩くと、そうっと耳をあて、 廊下の音を聞いた。 暫くの間、静寂と緊張に包まれた空気に身を置いた紳士。 やがて人の気配が無いことを感じ取り、そっと安堵の息をつく。 (よし、お母さんはいないぞ)
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