100万キロは遠すぎる

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   ふと彼に目を向けると、年貢の納め時とでもいうように項垂れている。   「アンタたちいったい何処から入ってきたのよ? いや、そんなことより逮捕ってどういうことよ!」  私の後に営業マンが続く。 「確か、刑法は四十章の二百六十四条までしか無いはずだ。三百なんて聞いたこともない」  営業マンは博識でそんなことを言っていた。まったく知らなかったことだが同調して迫った。    警官二人はお互い顔を見合わせた。上官らしき年配の警官は面倒臭そうに顔を歪めた。  部下が苦笑いしながら口を開いた。   「柳井慎二は過去への干渉を行った。これは刑法三百五条にはっきりと違反する。よって柳井慎二を逮捕する」    過去への干渉? 現在から過去へ?   「彼が過去へタイムスリップしたっていうの?」  私は鼻で笑うように言った。そんなサイエンスフィクションな話、私は好きじゃない。  警官の返答は私の予想を越えた言葉だった。   「柳井慎二にとって、今この時が、過去だ」    私は目を見開き、小さくなった彼に視線を向けた。  今言ったことを要約すると、つまり、彼は未来から来た人らしい。  彼は諦めたかのように小さく頷いた。      信じがたい事実だが、考えてみれば納得のいく話だった。  彼と警官たちが乗っていたあの三輪車が、タイムマシンなのだ。轟音と閃光は、時空間を移動する際に発生するエフェクトのようなものか。  事実、この喫茶店に警官たちは現れた。この目で見てしまった私には、それを信じるのに時間はかからなかった。  ……なるほどね。彼の帰る場所。それは未来。そこは途方もなく遠い。  100万キロも言い過ぎじゃないということか。      はぁ、私はどうやら、二ヶ月に渡り、未来人と交際していたらしい。  
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