100万キロは遠すぎる

11/12
前へ
/12ページ
次へ
   ここまでで十分に驚愕な事実なのだが、更なる衝撃が私を襲った。   「因みに、八親等以内の直系血族との接触は重罪だ。しかしまぁ、この柳井慎二に至っては、アンタとの間は一親等。どんな罪状が下るか」  警官は憐れむように言った。    私はその言葉を咀嚼する。彼は未来人で、私の血縁。しかも一親等しか離れていない。導き出される答えは一つ。      彼は未来の私の息子だ。    「皆さん、私達がコイツを連行すると同時に、ここでの今までの記憶は完全に抹消されます」  年配の警官が演説でもするかのように、大きな声を店中に響かせた。  店内はざわつき、客や店員の誰もが怪訝そうな顔を浮かべた。    その警官はぐるりと店内を見渡してから、私を見て止まった。 「貴女に限っては、えー二ヶ月と三日ですね。その間の柳井慎二に関する記憶も抹消です」  この頃になると私は驚くことも忘れてしまった。    彼との二ヶ月の記憶が一切なくなると言う。  彼との愛の二ヶ月間。  いや、息子との二ヶ月間。なるほど愛の二ヶ月間だ。    私はその時、どんな顔をしていただろう。あまりに複雑な感情があまりに複雑に入り乱れ、私はどうにかなってしまいそうだった。    警官二人は私達に別れの時間も与えないつもりらしく、早々と三輪車に乗り込み始めた。    それから閃光と轟音と。  薄れゆく意識の中、私はあることに気が付いた。    せっかく未来の旦那の名字を知れたのに。  視界が暗転した。      
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加