100万キロは遠すぎる

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   目が覚めると、そこは男の腕の中だった。    私は椅子からずり落ちたのか、テーブルの横で見知らぬ男に抱えられている。    あれ? 貧血にでもなったかな?    頭が重くてだるい。なんだか脳に強い衝撃があったような。    ――ここで何をしているんだっけ?    久しぶりにとれた休みに以前チバウォーカーで見て気になっていた喫茶店に"一人で"やって来て……。   「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ?」  私を抱えていた男の人が口を開いた。心配そうに眉を潜めている。    私は慌てて立ち上がった。  その男の人はライトグレーのズボンを履いていて、隣のテーブルの椅子にはスーツが掛けられている。    なんとなく好感がもてる。人の良さそうな目をしているし。  営業マンだろうか。とても真面目そうな印象も受ける。  何故だが博識そうにも見える。   「病院に行かれたほうが」   私はぼんやりと首を横に振る。  ふとワイシャツの首もとから掛けられた名札に目線が行く。      柳井。      なんとなく、凄くなんとなく、運命の出会いというものを感じた。
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