100万キロは遠すぎる

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   私たちのテーブルと営業マンのテーブルと、その間にある二台の三輪自転車と、それに跨がる二人の男。  よく見るとその三輪自転車は、かつて彼が乗っていたものと同じだ。  三輪自転車から降りた二人はなんだか強面で、そこにいるだけで周囲に威圧感を与えている。    二人ともおんなじ格好をしている。青っぽい角ばった帽子にこれまた青っぽいぴっちりとした上下。それにあの金色の桜の代紋が表すのは。   「警察だ」    そう。それ。警察。  この威圧感は警察のそれだ。    落ち着いた雰囲気の喫茶店に突如として現れた三輪車に乗った二人の警察官。  壁の向こうから突っ込んできたとか、屋根を破って落ちてきたとか、ではなく突然現れたのだ。  どうしたって物理的におかしい。  まったくもって理解に苦しむ状況に、皆どうすることもできず、ただただ事の成り行きを見守ることしかできなかった。   「柳井慎二だな。刑法三百五条により貴様を逮捕する」    今、なんと?    柳井慎二とは無論彼の事である。彼が刑法三百五条により逮捕されるそうだ。    頭の中ではしっかりとその言葉が打ち出されているのに、その実、意味を理解できる気がしなかった。   「は? 何言ってんの?」  私は立ち上がっていつの間にかに口を開いていた。だって意味がわからない。  あり得ない登場をしたこいつらが他のことを言っても理解に苦しんでいるだろうが。   「なんだこの女は?」 「……例の」  二人いるうちの部下らしき男が含みのある言い方をした。私に何かあるのか。
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