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クリノリン
「そのスカート、まるで振ったら音が鳴りそうだね。」
「まあ、ほほほ」
綺麗に膨らませたスカートは女の自慢だった。
だれよりもいいパニエをもっているんだなあと自分で確信することにより、ある種の優越感も味わえたし。
その日のスカートはポンパドゥール風。
素敵な花柄は皆の注目の的だった。
舞踏会でももしや一番に彼女は目だっていたかもしれない。
あんなに見事に膨らんだクリノリンを、誰も見たことがなかった。
つまりは、彼女のようなパニエを作れる職人は、すぐには見つからなかったというわけである。
ある日のことである。
嫌味の得意な女が言った。
「あんたのスカート、天然痘で膨れ上がった肥満体の顔面みたいね。」
と。
今まであんなに大好きだったよく膨らむかわいいパニエ。
一度も自分を裏切ったことのない、唯一無二の素敵なパニエ。
あんなに好きだったパニエ。
しかし、一度そう言われると何か変な気がしてたまらない。
嫌味な女は言った。
「ねえ、そんな変なパニエを作る職人がどこにいるのか、私にだけ教えてよ。
もう面白くって!」
女はかぁっとなり、その女に自分のパニエ職人を教えた。
そして自分は、もうそのパニエをはくことはなくなった。
ある日のことである。
あの嫌味な女が舞踏会に<あのパニエ>をはいて出席した。
きゃあきゃあと言われ、素敵と称えられるその女。
そのスカートは、少し前まで自分がはいていたのと同じ形…
吊り鐘のような形である。
その女は言った。
「あいつ、馬鹿よねぇ。
多分このスカートみたいに頭が吊り鐘なのよ。
固くて、音がなるような脳みそなんだわ。」
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