死線

「食っていいぞ。お前はまだ育ち盛りなんだから、食わなきゃいかん」

　そう言って、残りの分も渡してくる武人。恐る恐る口にした干し肉は涙が出るほどに旨かった。

「やはり、腹が減っていたか。食え食え。肉なら沢山持ってきた。全部お前にやるからな」

　そう言って、気さくに微笑みながら、自分の頭を撫でてくる武人。武人の手は大きくてごつごつと厳つい手をしていたが、とても温かかった。

　思わず、泣いた。生まれて初めて心の奥底から安心した気がした。あの優しさが当時の自分には眩しくて、目を開けていられなかった。必死に肉を頬張りながら、泣き喚いた。そして、死んだ父と母を思い出して、また泣いた。

　それからの毎日はその武人と常に一緒だった。生きていく為と言って、武術や学問も教わった。最も、学問は苦手であったが、武術の方は才能があったらしく、その実力を日に日に増していった。

　その時から、男にとって、その武人こそが父親であり、師匠であり、自分の人生の全てだった。

　いつのことだったろうか。武人が男に、とある夢を語った時があった。