誰かが流した雫

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誰かが流した雫

誰かが泣いている。 泣き声は幼かった……。 声がする方を向いたら、少年が雨の降る町の片隅で泣いていた。 雑踏の中、泣いていた。 誰もが忙しそうに少年の前を通り過ぎていく。 誰も、一人の子供が泣いていても見向きもしない。 だれも、声をかけない。 誰もが、そこには何もいないかのように過ぎ去っていく。 「ねぇ……なにしてるの?」 突然かけられた声に小さな少年の体はビクッと震えた。 「なんで泣いているの?」 優しく、声をかけてくれたのは女の人だった。 「わからないの……」 少年はそう答えた。 「僕、何で泣いているのかわからないの……」 少年の小さな体は膝を抱えて、さらに小さくなった。 「わからないけど、悲しいの。とっても悲しいの」 「悲しいなら……私と話しでもしない?」 少年は強く頷いた。 女の人も、その場に座って話をした。 いろんな話をした。 友達の話からおばけの話まで、たくさん話た。 「ありがとうお姉さん。僕、なんだかすっきりしたよ」 少年は、いつの間にか泣きやんでいた。 「泣きそうになったら、いつで私の話を思い出してね」 少年は……もういなくなっていた。 「私はいつでも話くらいならしてあげるから……だから」 天には、青空が広がっている。 「いつでもおいで……ここは……あなたのいる世界なんだから」 雨上がりの街は……雫が太陽の光に照らされて美しく光っていた。
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