🌙狐の語らい

幕間

幼く見えるが、やはり
妖怪狐だということだろうか。
実は、百年・二百年生きているのかもしれない。

「ねぇ、母様？そうだよね？
　いっつも言ってるもんねっ」

「…まったくこの子は。
　生意気をいうんじゃ
　ありません。
　…すいませんね。
　気にしないでくださいな…」

「いえ…。おかげで、
　少し楽になりました」

「新吉さん」

「はい」

「…きいてくださいますか？
　私達の話を…」

「え…？」

「私達も…人に会うのは、
　とても久しぶりなのです。
　…あなたの話をきいていたら、
　私も、誰かに話して
　楽になりたくなりました…。
　…それに、もしかしたら、
　あなたの決断の、
　参考になるかもしれません。
　お願いできます…？」

「あっ…、はい。もちろん…。
　俺で、いいんなら…」

女、おりくは、
膝に擦り寄ってきていた
勝太郎のあたまを
しずかに撫でた。
その目はとても優しげで、
それでいて、
どこか苦しげたった。

「…この子は、勝太郎は、
　こんな尾をしては
　おりますが…、
　狐の本性をもっている
　わけではありません。
　この子は、半人半妖の…
　人にも狐にもなりきれぬ、
　不具のものなのです。
　実は…
　この子の父は人間なのです…」

「………」

「もう七年近く前に
　なりますでしょうか…。
　私は、里近い山を
　歩いていたときに、
　人の仕掛けた罠に
　掛かってしまったのです。
　私もまだ
　若うございましたから…、
　あさはかでしたし、
　未熟でした。
　だんだんと日も暮れてきて、
　今すぐ殺されるという
　恐怖はないものの、
　いつまでこのまま
　なのかと思い、
　途方に暮れておりました。
　…そこに、
　あの人があらわれたのです…」