🌙狐の語らい

山の奥

　俺は……死ぬのか？

もう
座っていることすら
できなくなった。

俺は
ずるずると
地面に倒れこんだ。
木の根に比べ、
しっとりと養分を含んだ
土の柔らかさが、眠気を誘う。

気温は高いはずなのに、
木々の間を縫って
差し込む太陽が、
暖かくて気持ちがいい。
体温が下がっているのだろう。

ひどく立体的に響く
虫の声だけが
途切れそうな意識を
辛うじてとどめていた。

この山を彷徨いはじめてから、
もう三日も経ってしまった。
こんなことになるなんて
思いもしなかったから
水も、食い物も、
何も持っていなかった。

村の奴らは、
俺を探してるだろうか。
…いや、ありえない。
奴らは、俺が
自殺すると思ってるはずだ。
そのために失踪したのだと。

たしかに、多少自暴自棄になっていたことは認める。
だから、
いつもは通らない
獣道を歩いたりしたのだ。
油断して、
草木が最大限に繁茂した
夏の山を甘く見たのだ。

道は、
すぐに見失ってしまった。
焦りをごまかすように
がむしゃらに歩き回った。
毎日のように入る山だ
じきに見覚えのある場所に
出るはずだと
自分に言い聞かせた。
立ち止まったら、
もう二度と戻れない気がして
歩き続けた。

　喉が、渇いた…

この暑さだ、
雨露でしのぐのは限界だった。
川は見つからない。

　ここは…
　　どこだろう…？

里に向かっている
つもりだったが、
もしかしたら、
隣の山に来てしまったの
かもしれない。

「…う…ぁ…」

視界の端が
もやもやと白く霞んできた。
急に暗くなってきた気もする。

　死ぬんだ…

…サ、
　…カサカサ…
　　…カサカサ…カサ

何かが、動く音がする。

ザンッ…

小さくなった視界に
何かが飛び込んできた。

「…んげんだ、人間だっ。
　…あれぇ、生きてるっ！
　死にそうだけど、
　生きてるよぉ…？
　母様、ははさまぁっ！」
　…声？

俺の意識は、そこで途切れた。