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「な‥‥んで‥‥」
翌朝発表された出陣表に義経の名はなかった。
「昨夜の様子では、仕方がないと思うてな」
「兄上、私の武は不要と言うのですか!」
「いやいやとんでもない」
興奮する義経を、まぁ落ち着けとなだめる。
「・・・ならば、なぜ」
呼吸を整え、頼朝を見据える。
「私の武は、兄上のため、世のためふるわんとして・・・」
「今ここで使う必要はなし。・・・先程、義仲が出陣したそうだ」
思いがけない言葉に義経は目を丸くする。
義仲、源義仲は、義経・頼朝の従兄弟にあたり、頼朝と同じく、平氏討伐に挙兵していたのであった。
「義仲殿が・・・?」
「厄介だ」
「兄上?」
ぼそり、と呟いた頼朝の言葉に眉を寄せる。
頼朝は義経に笑いかける。
「冗談じゃ、義仲の援護ぐらいに汝の武は余るほどじゃ。分かってくれ」
「・・・」
そこまで言われては黙りこんでしまう。はいとしか言えない。
「失礼しました」
後ろ髪ひかれる思いで幕を出ると、弁慶が立っていた。
弁慶の近くまで歩いていき、前までくると言いにくそうに目を反らした。
「すまない」
「構いません、今はその時ではないのでしょう。義経様が武をふるうのは、もっと大舞台なのだと決まっておりましょう」
「そんなことは‥」
「待ちましょうぞ。へたに動いてはなりませぬ」
「・・・そうだな」
義経は苦笑いで返した。
随分大人らしい弁慶に、己を恥じた。
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