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今日は風が冷たいな
ボーっとしている義経に弁慶が杯を差し出す。
「お疲れ様です」
「あぁ、すまない」
あの後、二人は幕を抜け、人目がつかない場所で手合わせをしていた。
弁慶が持ってきたのは水だが、川の水なのかとても冷たい。
「どうかなされましたか?」
「え・・・」
「いや、考え事の様でしたので」
「ああ」
言われて義経は苦笑した。
まったくその通りだ。
「いや少しね、義仲殿の事を」
「義仲殿?あの木曽のですかな?」
「あぁ」
「・・・どうかなされたのですか」
義経は渡された水を一口含み、ゆっくり飲み込んだ。
「義仲殿が先刻、出陣されたそうだ」
「なんと・・・ならば加勢しなくては」
義経はふぅ、とため息をつく。
「私もそう思ったのだ。だが、兄上はあの様子では一軍すら送らないであろう」
「・・・」
「実際、義仲殿に会ったことは無いのだが・・・兄上があんなに悪く思うような方なのだろうか」
弁慶は水の杯をくるくる回した。
「おもしろく‥ないのでしょう」
「え・・・?」
「いや、そのうち分かるでしょう」
弁慶は、はははと笑うだけであった。
「はてな」
義経は渋い顔をした。
どうにも嫌な気がしてならないのだ。
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