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月は好きだ。 全てを吸収してくれるようだ。 やわらかく温かい。そんな気がする。   月を見ていると時が過ぎるのが早い。 気付けば辺りが明るくなるのも、もう毎日だ。 だが、寝なずに済むならそれでいい。目を閉じたくない。   「さてとっ」   わざとらしく声を上げた頼朝に、義経はハッとした。 あぶないあぶない・・・   「わしは寝るとするが、汝はどうする」 「私は、もうしばらく此処に」   頼朝は大きくのびをした。   「そうか、明日の戦のために早々に切り上げるのだぞ」 「はい」   ゆっくりと去っていく兄の背を見送った。   明日も戦か。 またあの恐怖が襲ってくるのだと思うと、寝れるわけがない。 格子をそっと開け、座り込んだ。 こうして月を仰ぐが一番だ。   月が照らす。 草も木も池も、全てが灰色だ。ただ一つ、池の月は黄色く光る。 やわらかく頬を撫でていく風が、義経の髪を絡め取り、共に踊る。 キシリキシリと床が鳴り、義経の姿を認めたその音は、ゆっくり止まった。   「義経様」   声で分かる。この低く、声だけで全てを圧倒する様な声。   「弁慶・・・まだ起きていたのか。それとももう朝か」 「いえ、丑の刻にございます」 「そうか」   未だ庭を見つめる義経に弁慶は苦笑した。   「今日は満月ですなぁ」 「そうだな」   大きくのびをし、ちらりと義経を見るが、振り向きもしない。 溜め息をもらしつつも、いつもの事だ。もう慣れているという顔だ。 義経の横にゆっくり腰をおろした。
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