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弁慶を見ていた義経はやわらかく微笑した。
実に穏やかだ。
「そうだな、お前にはいつも助けられてばかりだ。有り難うな」
弁慶が照れ臭そうに笑う。
「そんな事ありませぬ。拙者じゃって義経様に常に助けられていますよ」
「・・・左様か?」
「然り。義経様が側にいらっしゃるだけで力が沸いてくるのです」
義経も頬を赤らめる。
「言い過ぎだ」
そんな義経に弁慶は目を細めた。
このいとほしく心憎い御人を、自分は守り通すのだと思うと、とても嬉しかった。
「冷えてきましたなぁ」
「そうだな」
そういえば、と義経は腕をさする。
「お風邪を召されますぞ。今日はもう床に就くが良いでしょう」
ポンと義経の肩に手をおく。
義経はしばし嫌そうな顔をしたが渋々頷いた。
「そうだな、寝るとしよう。弁慶も、直ぐに寝るのだぞ」
「御意」
ゆっくりと腰をあげ、スタスタと歩いていく義経を、弁慶は見送った。
見えなくなると、先程まで義経が坐っていた場所に腰をおろした。
「あの調子でしたら、今日の眠りは浅いですね」
ふぅと溜め息をついた。
義経が毎晩の様に寝ないことなど、弁慶はとうに知っていた。
だから、夜になれば散歩を装い義経を見守り、心の支えになってきたつもりだ。
寝ていない事に比べれば、浅い眠りは十分な進歩だ。
長かったと弁慶は何度も頷く。
「義経様が安眠できるその日まで、この弁慶、支えてゆきまする」
月を仰ぎ誓うと、むッくと立ち上がり、彼もまた歩いていった。
風が踊る。
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