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目を閉じれば、過去が脳裏を飛び交う。三年前の、あの日々が。
蝉時雨をバックに暮れていく太陽が、一段と輝いて見えた夏の日。そのまばゆさに正面が向けない僕は、うつむき加減に歩みを進めていった。
地面に映し出された僕の陰がいくつも通り過ぎていく。
今日はどの位歩いただろうか。疑問を覚えたが正確に把握出来る筈もなく、即座に考えを捨てる。
余計な思考は疲労を倍増させるだけだと経験で知っていたから。
「そろそろ、休もうか」
無意識のうちに、唇が思いがけない言葉を紡いだ。
自分の声に驚いたのは僕の方で、周囲は何事もなかったかのように静けさを保っている。
思わず溜め息が漏れた。どうやら予想以上に集中力が切れているらしい。
隠れる場所もないだだっ広い草原を見回しながら、浮かべたのは多分、自嘲の笑み。
自分の体力の無さにはほとほと呆れる。
木陰を選んで休むことにしよう。そう思い立った僕は、草木の生い茂る森の中へ体を滑り込ませた。
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