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暗闇だから姿こそ見えないものの、明らかに不審な動きをする陰を見つけた。肉食獣の類だろうか――。
夜行性なら厄介だ。僕には姿が見えずとも向こうにはお見通しになるから。
しかし相手がこちらを気にかける気配はない。僕に背を向ける形になっているのか?
――ということは、あの背の向こうに誰かいる。恐らくは先刻の悲鳴の主。
気配を悟られないよう、低姿勢を保ってゆっくりと近づく。理性をもたない彼らをむやみに興奮させては収拾がつかないし危険も増すから。
今は最も安全に人を逃がす策を練らなければ――。
近づくごとに肉食獣らしきものの低く哮る声が耳にはっきり届くようになる。相手に戦いの意思を示しているときに発する音。
不憫だが無傷で逃がす訳にはいかない。
生い茂った森の木々はうまい具合に僕を隠してくれたから、近づくのは容易だった。あとは、ほんの一瞬だけ息を止めて集中すれば良い。
僕は巨体の臑に狙いを定め、水平に剣を振り払った。肉を斬る感触がはっきりと手に残り、巨体はくぐもった奇妙な悲鳴と共にその場に崩れ落ちた。
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