追憶の起点

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その日の裁判は殺人の判決についてのものだった。 実際殺人なんてのはそうそう起きるものでもない。それだけ大きな理由がなければしないからだ。 だから僕達がこの裁判に立ち会えたのは、こう言っちゃいけないけど、かなりのラッキーだったのかもしれない。   裁判長が淡々と話し始めた。 「これより、河合 正治氏殺害の公判を始めます。昨日に引き続き、本日は証人尋問を行います。」 一つの裁判にかける時間は一日せいぜい1時間だという。そのためその日その日でやることが決まっていて、僕達が行った日はちょうど証人を呼んで話をする日だった。   今回の事件は河合 正治という人が自宅前で殺害されたもの。 被告人はその状況を不注意にも目撃されているらしい。 その目撃者が今日来て証言をすれば罪が確定する。   「被告人、入ってきなさい。」 そう言われて被告人が奥の扉から警備員と一緒に出てくる。手にはもちろん手錠がされていた。 その人にしてみれば、関係ない人達に裁判を見られるのは、相当嫌な気分なんだろうな。自分の悪事を公開されてるのと同じことだもんね。  
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