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序幕 千変万化
戦とは、美しくあるべきである。
そう彼は思っていた。思っている。
だがどうだろう。眼下にて繰り広げられているのは、力と力の押し合いであり、最早戦と呼ぶより規模の大きい取っ組み合いと呼んだ方が馴染み良い。
「低俗。下賎」
口を衝くのは貶し文句。彼は湧き上がる胸焼けにも似た感覚を抑え込む為に、無理矢理唇を結んだ。
「はぁ……。行く、か」
次いで出たのは文句ではなく溜め息。吐息。彼は銀縁の眼鏡を指で押し上げると、崖から山道へと身を翻す。
紺の外套が、彼を踊りにいざなわんとばかりにはためいていた。
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