230人が本棚に入れています
本棚に追加
遥か彼方、古より続くとされる剣帝国ロウズ。
重厚歴史と圧倒的な国土を誇り、戦乱の世相に於いても国内の秩序と和平は揺らぎを知らない。
それに加え、剣帝ナモーロの政治手腕は見事の一言に尽きる。
対するは魔法大国ギャミック。数年前に建国されて以来、史上類を見ない速度で領土を拡大してきた。
絶大な魔力から魔法王と称される国王リオンがその原動力である。
旅人の口調に呆れて口を半開きにしながら、ナイトは溜め息を吐いた。
「攻め手はどちらが?」
「我が軍だ。この先に村がある。塀も堀もある、拠点として活用出来る村だ」
戦略で負け、戦力で負け、地の利でも負け。このような状況ではまともな策を練ることも叶わない。
兵法の指南書ですらも、撤退は敗北ならずと語るだろう。
しかし彼は戦況を確認した上で、宣言した。
「二手で勝利の美酒をお出し致します。サー・ナイト」
そして眼鏡の奥でにやりと笑うと、彼は驚きから冷め遣らぬナイトに、魔擲隊員を五名所望した。
ギャミックの戦法は、魔衛隊と魔擲隊により成り立つ。防御魔法を最前線で横一線に張り巡らせ、その背後から攻撃魔法で敵を討つ。
残存兵力は、魔衛隊十八に対して魔擲隊三十二。ロウズの攻撃力の前に、ギャミックの魔衛隊は陥落寸前だった。
「良いでしょう。手早く頼みますぞ!」
快い返事を自身の肚の中で反芻し、リブラティエは笑顔を作る。
「ありがとうございます。では、僕は一度失礼します」
言葉を置き去りに、紺の外套を翻し彼はすぐさま歩き出す。ふん。と鼻を鳴らしてその背を見送り、ナイトは視線を前方に戻すと苛立ちを織り交ぜた溜め息を洩らした。
「たった五人で何が出来るというのか……」
今更ぼやいてもしようがない。それでもぼやかずにはいられなかった。
そんなナイトの心情など露知らず、リブラティエは着々と準備を進めていた。
見つけた順に、五名の魔擲兵。自身を含めてたったの六名。しかし彼は満足げに笑みを浮かべた。
彼の策では、これだけいれば十分なのだ。
第一手として、彼らは軍から離れ後方へ向かい、罠を張った。ほんの数個の罠は、難なく設置に成功した。
作業が終盤に差し掛かると、旅人はひとりでナイトの元へと舞い戻り、ただ一言だけ指示をした。
最初のコメントを投稿しよう!