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彼は、跪いていた。
天井は高くアーチ状。あまりに広々としすぎている謁見の間は、最早目測で寸法を測れぬほど。そしてその最奥で、彼は。
魔法大国ギャミック国王、リオン・レーベルの、その眼前に跪いていた。
「面を上げろ」
玉座の下から大扉まで、氷のような深い青色の絨毯が敷かれている。その左右には何十人もの兵士が寸分乱れることなく列を成していた。
重々しい、酷く重々しい空気の中で発せられた声。それは空気を和らげるどころか、更に荘厳とさせた。
「はっ」
即座に彼は顔を上げる。片膝は付いたまま、仰ぎ見る形で見据える。
玉座に深く腰掛け、頬杖をつきながら、彼は値踏みするように金糸の旅人を見下ろしていた。
「先日の合戦でお前が指揮を執っていたと専らの噂だ。真か? 偽か?」
さながら、磨き上げられた名刀のようにも、唸りを上げる矢のようにも思える、視線。
だが彼は、身動ぎも臆しもしなかった。
「真にございます。国王」
それどころか、うっすらと笑みすら浮かべて応じた。その不遜な態度と返答を聞き、リオンの片眉が僅かにだけ反応を示す。
それを、リブラティエは見逃さなかった。
「尾鰭が付いているか否かは存じ上げません。しかし僕が戦術を提案し、それが功を奏したのは事実でございます」
国王は押し黙った。ここで事の経緯を全て聞き出すことも出来る。しかし根掘り葉掘り旅人に聞かせ願うことは、国王としての誇りが許さなかった。
家臣を通じて粗方はナイトから聞き及んでいる。虚偽の功績も含まれているだろうが。
国王はその子細よりも、虚実かどうかと、もうひとつだけ確かめたいことがあった。
「お前はなぜ我が国の側に協力を申し出た? 迷って辿り着いたとしても、不利を悟れば敵方に付くことも出来ただろう?」
もしくは、戦に加担などせずに立ち去れば良い。発せずともリオン王の声色からは真意が滲み出ていた。
何故か。さして難しい質問ではない。理由がなければ気紛れだと言えばそれで済むような問いに、しかしリブラティエは顔を伏せた。
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