11815人が本棚に入れています
本棚に追加
/635ページ
恐らく、東京よりも色が濃いであろう空。
京市は沈み行く眩しい夕陽に目を細めながら、携帯を静かに閉じた。
思いを馳せるのは携帯が繋がらなかった相手。
(学校はもう終わってるはずだよな……。買い物でもしてるのか……?)
緑に囲まれた小さな材木会社の裏手。
従業員の休憩所も兼ねているこの庭は、どこか宇崎家の庭を思い出させる。
(これだけ空気が澄んでると、煙草を吸う気にもなれないな。)
担当者との打ち合わせが終わり、この美しい庭で美味くも無く、不味くも無い缶コーヒーで一息ついていた京市。
律はどうしているのかと思い電話を掛けてみたが、空振りに終わり盛大なため息をついた。
(声を聞きたかったんだが、残念……。)
乙女思考な自分に苦笑する京市の頬を、冷たい風が撫ぜ、身を縮こませる。
「宇崎さん、こちらでしたか。そろそろタクシーが来ますよ。」
「え、ああ、有難う御座います。」
後ろから声を掛けて来たのは、この会社の専務である恰幅の良い男。
長年宇崎組と取引をして来た間柄で、お互いの気心も知れている仲だ。
「おっと失礼、お電話中でしたかな?」
専務は京市が手にしたままの携帯を見て、邪魔をしてしまったかと申し訳無さそうに言った。
「いえ。繋がらなかったので、お気になさらず……。」
京市はいつもとは違い、どこか無防備な表情を見せる。
最初のコメントを投稿しよう!