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ふんふんふーん、ふんふんふーん、ふんふんふーふふーん……
カツーン、カツーン、カツーン、カツーン、カツーン…
少女の履く踵の少し低いヒールが、下の鉄の敷かれた道を力強く踏み付ける。
また、彼女は軽快なリズムでずっと鼻歌を歌っている。
それらの音はどこまでも続いているこの長いトンネルの奥の奥まで反響し、響き、真っ直ぐに飛んで行く。
歩調は割とゆっくりだった。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…
僕は彼女の後ろを付いて歩く。
彼女の歩調に合わせる。
この道に入ってから20分程が経っただろう。
僕たちは何も喋らず、ただただ歩いている。
彼女が僕の意思を確かめ、迎え入れてから彼女はご機嫌な様子だ。
あの後、彼女が反仮面主義軍の名を口にした後、僕らはゆっくりと歩き始めた。
少し川上まで行くと、川の右側の壁に忽然と大きな鉄製の丸扉が現れた。
高さは2、3メートル程あるだろう。
彼女はその扉の正面にポツンとある穴に人差し指を入れた。
するとギリギリと音を発て扉はゆっくりと勝手に開いたのだ。
もちろん僕はこの道がどこに続いているのか、とかいろいろな質問をしてみた。
しかし僕が質問をするたびに
「着いてくればわかるわ」
と一言で軽くあしらわれ、取り合ってもらえずにいた。
そして促されるままに彼女の後ろを着いて歩き、今に至っている。
(それにしてもこの歌…)
彼女が鼻歌で奏でる歌には聞き覚えがあった。
必ず聞いたことのある、どこか懐かしいメロディだ。
なにせ長い時間を歩いている。暇潰しに思い出そうとしていた。
子供の頃の記憶が蘇る。
この音楽が街中に響き渡る日が毎年待ち遠しく、聞くだけで心が踊りワクワクするような音楽……。
「ジングル・ベル?…」
僕はポツリと呟き頭を上げ、彼女の後ろ頭を見る。
すると歩みを進めたまま彼女はこちらをちらりと向き、ニコッと微笑む。
「あなた、この歌は好き?」
と、前に向き直った彼女が肩越しに尋ねてきた。
「ま、まぁ。 ガキん時は好き、だったかな?」
さっきの彼女の美しい笑顔に、少しどぎまぎしながら答えた。
「そうなの。 私は好きよ、この歌」
彼女は明らかに嬉しそうな声色でそう言った。
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