2人が本棚に入れています
本棚に追加
電車に乗り込み時間を確認する。
携帯をのぞき込むと『10:45』と表示されていた。
必要なくなった携帯をズボンのポケットにしまい、適当にドア付近に居場所を確保する。
すいている車内をチラリと見ると、興味なさそうに視線を窓の外に向ける。
忙しなく変わる窓の外の風景にため息をつく。
普段乗らないわけではないが、今乗っているのはいつもと逆方向。
しかもいつもは二駅で降りるのだが、今日は終点まで乗っていなければならない。
見慣れない風景を見て、高校の時を思い出す。
高校二年の時、直と紗夜は色々なオープンキャンパスへ行っていた。
紗夜の希望だった今通っている大学は勿論、直は学校の指定校になっている大学を一通り見に行こうと言っていた。
そしてその時、今向かっている大学にも二人で行った。
電車の中で遠いね、ともらした直をよく覚えている。
ぼやくようなことを言ったくせに、目は期待と緊張でキラキラしていたから。
「あの時ぶりか、あそこに行くのは」
呟いた声は電車の音と重なってかき消された。
車内でぼーっとしているといつの間にか終点に到着しており、ホームを出て違う路線へ乗り換える。
違う路線に着くとまだ電車は来ておらず、電光掲示板で電車の時刻を確認する。
『11:15』と書かれた文字が一番上に映し出されていた。
現在時刻は11時10分。
そろそろと思っていたところにちょうど電車が到着した。
電車に乗り込むと、今度は椅子の一番端に腰を下ろす。
これからこの電車に一時間ほど揺られなければならないのだ。
さすがに一時間をたって過ごす気にはなれなかった。
しかし、この電車に乗ってしまえばもう着いてしまったようなもの。
あとは、目的の駅に着くのを紗夜は静かに待てばいい。
暇を潰すためカバンの中から一冊の本を取り出す。
数分後、電車は走り出した。
.
最初のコメントを投稿しよう!