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「あ~。……あっつ…」
畳の上。
現代ではあまり見かけない縁側のある一軒家の一室。
吹き抜ける風が風鈴を揺らす。
その音を聞きながら団扇を扇がずに庭の風景を見ているひとりの女がいる。
「あっちぃ……」
目は虚ろでやる気の全く感じられないオーラも纏っている。
女の名前は遠坂紗夜(トオサカサヨ)。
今年度大学に入ったばかりの一年生。
「何で夏なんて存在するわけ?」
「紗夜文句言わないの~」
いきなり頭上から降ってきた聞き慣れた声に視線と共に顎を上げる。
「………うざい」
「ひどっ!紗夜が呼んでも出てきてくれないから勝手に上がっちゃったよ?」
「勝手にしろよ。何か用か?直(ナオ)」
現れたのは見慣れた男。
まだ少し幼さを残したような、しかしがたいはやはり男を思わせる男の名前は夕崎直(ユウサキナオ)。
紗夜と同じく今年度大学に入学したばかりの一年生。
「あ~うん。紗夜夏休みの課題終わった?」
「うちの大学そんな大きな課題ないし」
「じゃあ手伝って!」
「はぁ?」
不機嫌な声を出して気だるそうに体を起こす。
「何で私がそんなことしなくちゃなんないんだよ」
「だって紗夜のとこ課題少ないんでしょ?」
「だからって何で私が他の大学の課題付き合わなきゃなんないんだよ」
「いいじゃん。毎年一緒にやってるんだから」
「はぁ~…」
眉を潜めて左手で顔を覆う。
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