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「…紗夜暑くないの?」
「は?暑いから団扇持って風通しのいいこの部屋に…」
「だって髪結んでないから」
そう言って紗夜肩にかかった髪を少し掴む。
「紗夜の髪は綺麗で好きだけど、夏場は下ろしてると暑くないのか心配になるよ」
「お前が何で私の心配をする?」
「え?そ、そりゃあ幼馴染みだし」
「あっそ……」
直を見ていた視線を畳へ移し、少し考えてからもう一度直を見る。
「手伝ってやるから課題もって台所まで来いよ」
「やった!ありがとう、紗夜」
「はぁ~…」
なぜ私が、とでも言うような視線で喜んで帰る直の背中を見つめた。
紗夜と直は家が隣同士の幼馴染み。
幼稚園から高校までずっと同じところへ通っていた。
大体の幼馴染みとは進級などによって必ず隣にいる存在ではなくなっていく。
しかし、紗夜と直は大学に入ってからも今までと変わらない関係を続けていた。
それは直が紗夜に頼り過ぎなのもあるが、紗夜も紗夜で直に甘くなっているのもある。
紗夜は毎年直の夏休みの宿題やらテスト勉強やらに付き合ってきた。
今となっては、夏休みに直が紗夜の家を訪れるなんて当たり前。
仕方ないかとため息をもらして台所のテーブルへと移動する。
冷蔵庫から烏龍茶を出しコップを二つ出して、それに烏龍茶をつぐと直の帰りを待った。
その間に団扇で自分を扇ぐ。
クーラーがないわけではないが、紗夜自身があまりクーラーの風が好きではなく、暑いと言いながも団扇や扇風機で夏を過ごしている。
「大学に入っても変わらないのか?あいつは」
呟くように漏らした言葉は響くことなく消えていく。
「紗夜~!お待たせ」
静かな空間に似つかわしくない声が入ってくる。
「早くしろこのバカ」
「バカじゃないもん。……まあ紗夜よりはバカだけど」
「いいから早くしろ」
「は~い」
向かい合わせに座り、直はテーブルに課題を広げる。
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