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――騒がしい。
聞こえてくる音によって、途絶えた意識が再び少年に戻る。
全身の疲労は感じないが、軽い頭痛による怠さが残っていた。
それも彼にとってはもうある程度慣れてしまった感覚だ。
少年は様々なコードが繋がったごついヘルメットのようなものを脱ぐ。
すると先程まで篭るように聞こえていた音が一気に鮮明になり少年の耳へと飛び込んで来る。
雄叫びに似たそれは歓声。
しかし、それは少年に向けられた物ではなかった。
そして、次に見えたのは一面の人。おそらく千人近くはいることだろう。
数段高い位置から見るその光景はまさに壮観だった。
「そうか、俺は負けたんだったな」
その声は、誰にも聞かれることはない。
思考と現実を繋ぐ為の独り言。
少年が力無く座る大掛かりなシートの前に、それまで敵として戦っていた女。
そう、少女が自分に近付いてきた。
しかし、今度は先程までの敵意はなく、むしろ今の彼女はその逆の意識を持っているのだろう。
少女は少年に手を伸ばした。
それが自分を起こすための行為と理解するのに少年は少し時間を使う。
そして戸惑いながらも少年は手を伸ばし、少女の手と重なった瞬間。
収まりかけた歓声は再び盛り返した。
その歓声には少年に対する称賛も含まれていたのかもしれない。
それが彼にとって、逆に苦痛に思えた。
「ランク95、プレイヤーネーム『カグラ』。ランク90、プレイヤーネーム『アンサー』を下し。見事、百近い差を物ともせずにランクマッチを征しました! それによりカグラ選手は県内ランク90まで昇格。アンサー選手はランク93に降格します。その他ランキング変動については電光掲示板、または手持ちの端末でご確認ください。これで今回のランクマッチは終了します。では、皆さん次回もLet's.Dive!」
司会進行役の女性がいつもの一言でしめると観客達は拍手をして、それぞれ移動を始める。
プレイヤーネーム『アンサー』。そう呼ばれた少年はゲームが終わった後も、しばらくその場で立ち尽くしていた。
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