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そしてそれに近付く少女。プレイヤーネームは『カグラ』。
檀上には機械仕掛けの座れば全身が埋まってしまうような椅子。遠くからでも戦いの様子が解る巨大なディスプレイが三台。
そして少年『アンサー』と少女『カグラ』。
この二人以外に人はいない。
「……なんか用?」
少年は顔を向けずに言う。
「あ、いえ。いつまでも動かずになにをしてるのかなぁ、と思って。それと名前。よかったら名前を教えてくれませんか? プレイヤーネームではなくて実際の。因みに私は朝神神楽【アサガミカグラ】と言います!」
どうやら彼女……神楽は自分の本名をそのままプレイヤーネームにしたようだ。
ゲームの上で実際に戦い、動くのは自分なので、名前をそのままプレイヤーネームにするプレイヤーは少なくない。
少年はその例外の一人であった。
「あんまり言いたくないんだけど……。君の名前も聞いちゃったし、まぁいいか。俺は新田解斗【ニッタカイト】」
「新田解斗……解斗、解。ああ、それでアンサーですか」
解斗は名乗ったことを後悔した。
彼は最初、カイトで登録しようとしたのだ。
しかし、そんな彼に立ち塞がった壁。
『重複チェック』
つまり、カイトと言うプレイヤーは既にいたのだ。
それで解斗は『解』、つまり答えと言う意味を持つ『アンサー』をプレイヤーネームにしたのである。
その場で即席に作った名前。ゲーム開始当初では少なからず違和感を持っていたが、今では結構気に入っている名前だった。
しかし、名前の由来を他人に当てられるのはやはり、かなり恥ずかしい。
しかも解斗は名前を打ち明けて、何回か笑われた経験もある。
それならいっそ全然関係ないプレイヤーネームにすればよかったと幾度となく自分を責めたわけだが、一度決めたプレイヤーネームは変えられない。
つまり手遅れだったのだ。
そんな過去を思い出しつつ、解斗は問う。
「笑わないのか?」
「……へ? 何でですか? 私は良い名前だと思いますよ。『アンサー』も『解斗』も」
彼女は何を言ってるのか本当に分からない。というような表情をして答える。
そして、言い終えると同時に神楽は無邪気に微笑んだ。
その動作に少年は後ずさる。
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