好きな人

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「……んだ」 「ん?」 快が小さく呟いたが聞き取れず再度問う。 「人を好きになることが怖いんだ」 「"Love"の方か?」 「うん。"Like"の方は全然へーき」 「なんで怖いんだ?ほら、よく女子が言うじゃん。恋をするって楽しいとか」 「そうだな。普通はそう思うかも、な」 その時の快の寂しそうで冷たい眼差しが俺の心にひどく突き刺さった。 生まれた時から一緒に育ってきたはずなのにこんな表情の快を見るのが初めてだ。 俺の知らないところで快になにかあったのか? ムカつく。 「恋しないと青春できねぇぞ」 俺らしくないセリフを言ってみる。 するとニパッと快は笑った。 「青春って…隼人の口からそんな単語が出てくるとは思わなかったぜ」 「たまには、な」 「んだよー。でも、いつかできるよな」 「そうかもな」 「あ、好きな人できたら教えろよー!」 「へいへい」 「忘れたら縁切るからな!」 「大丈夫。その前に俺の方から切るから」 ったく、人騒がせな奴。 家に着く頃には快はすっかりいつも通りに戻っていて俺にじゃあなと言うとすぐさま家へと入っていった。 結局なんだったんだ? いきなり好きな人ができないとかほざきやがって。 あいつは一体俺に何を求めているんだ? 俺はなんでも知っている博士でもなんでもないんだぞ? でも快が俺に相談するときは俺を求めている時。 俺がなんでも知っていると思って色々なことを聞いてくる好奇心旺盛な子供になっているんだ。 俺は何にも知らない訳ではないが、この世の理屈やすべてを知っている訳ではない。 それは快も分かっているはずなのに俺に頼ってくる。 ったく、それにあいつは相談する前にはすでに自分で答えを得ているんだ。 なのに、その答えが合っているか不安で誰かに相談してこの答えが合っていることが聞きたいんだ。 もし相手も自分と同じ答えを出したら快は安心を得る。 だが、逆に違う答えが返ってくるとまた考え込んでしまう面倒なタイプだった。 まぁそんな快に俺は慣れているのだが……今回もそのパターンで≪好きな人≫のことを言ってきたはずだと思うんだけど……… .
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