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校舎の南にある体育館の近くには、部活動ボックスがあり、その一番奥に僕の所属するテニス部の部室がある。
その部室の手前には後輩が部活の準備に励んでいた。
すると後輩は僕に気付き、
「こんにちはー!」
元気に挨拶をしてきた。
「こんにちは」
僕も笑顔で返事を返し、後輩の労をねぎらう。
と、不意に部室から嫌な声が聞こえてきた。
「そんなヤツに挨拶なんてしなくっていいって」
そう言って出てきたのは竹下直樹。
少し小柄だが、テニスの腕前は県でもなかなかのものだ。
ただ、生活態度に少し問題があるようで、先生方からなにかと目をつけられている。
そんな竹下に後輩はたじろぎ、そそくさと部活の準備に戻ってしまった。
やれやれ、早速お出ましか……。
僕は内心うんざりしていたが、そんな表情を見せれば竹下はどんな行動をするか分からない。
ここは素直に無視をするのがいいだろう……。
そう結論付けて、僕は竹下を無視して部室に入ろうとしたが、竹下は僕を見逃さなかった。
「おい長瀬、俺に挨拶は?」
「ん……あぁ、こんにちは」
「はぁ!? なにタメ語使ってるんだよ! おはようございますだろう!」
……やっぱり竹下は面倒だ。僕と竹下は同い歳なのになぜ敬語を使わせようとしているんだろう……?
そもそも今はもう夕方なんだから『おはようございます』は変だし……。
そんな事を考えている僕を竹下は、まるで下僕を見ているような目付きで見下している。
きっと僕はよほど竹下をジト目で見ていることだろう。
お互いに話さない時間がしばらく過ぎた時、部室の中からまた声が聞こえてきた。
「やめろよ竹下、長瀬が泣きそうだろう!」
また面倒なヤツが出てきた……。
小声でそう呟いたが、どうやら二人には聞こえていないようだった。
新たに出てきたのは松本勇気。
背丈は僕より低いけれど身長は高く、体付きもがっしりしている。
松本も竹下と同じくテニスは上手だが、やはり先生に目をつけられている。
「そうかぁ、ごめんなぁ長瀬ー」
竹下は白々しく謝る。
「いや、泣いてないから……まぁ、別にいいけど……」
「はぁ、何で俺が謝らんといかんの?」
「あぁそうですか……」
全くもって訳が分からない。
竹下と松本が高笑いをしていたが、いつものことだ、もう慣れてしまったよ。
もう二人の相手をするのは飽き飽きだ。
僕は二人を尻目にテニスコートに向かった。
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