プロローグ

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プロローグ

「もう、だめか…。」  男は溜め息混じりに言葉を吐き出した。 「今、この秘密を知っているのは、学長だけだ。こうなった以上は、早めに何らかの手を打たないと、私の立場が危うい。何らかの手を打たないと…しかし、一体どうすれば……。」  黒革製の椅子に男は深々と座って、鼻の前で手を合わせた。その手は野球のボール1個分くらいに広げては閉じて、広げては閉じを繰り返している。男が考え事をするときの癖なのである。  しばらくの間、一連の動作を繰り返した後に、男は、机の引き出しから紙とペンを取り出して、11文字の言葉を書き始めた。 「『パーフェクト・クライム』やるしかない。口を封じるしかない……。完全犯罪で学長を…学長を殺す。」  男の目にはすでに迷いや恐れは無かった。あるのは強き殺意と完全犯罪を成し遂げる固い決意だった。  数分後、11文字を書いただけの紙を黒のスーツの内ポケットに入れ、男は席を立って、簡単に帰り支度を済ますと部屋から出た。ドアに鍵をかけて、ドア横の所在確認表のプレートを、在室から帰宅に移動させて、男は出口に向かって歩き始めた。  男の靴音は、放課後の静まりかえった廊下に不気味に響き渡っていた。
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