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①
僕は、まだ寝足りなかった。
なぜなら昨夜は、テレビの天気予報通りに冷え込み、暫くは寝つくことができなかったからだ。だけど、夜明け頃になると自分の体温で毛布が温もり、心地好い眠りができるという楽しみがあった。そのささやかな幸せは聞き慣れた着信音によって妨げられた。
僕は、現実に引き戻され、眠い目を擦りながら、携帯に手を伸ばした。
ディスプレイを覗くと、そこには見慣れた名前が表示されていた。
「はぁい…?」
「かっちゃん、おはよ!起きとる?」そして、聞き慣れた女性の声。
声の主の女性は、僕の彼女で、名前は嶋谷千博という。黒髪で丸顔、目が大きく、鼻筋が通った典型的な美人の要素を持っている。
しかも童顔のため、実年齢より下によく見られるらしい。彼女とは大学で知り合い、雰囲気にひかれ、知り合って1年後に告白した。それ以来、一人暮らしで、寝ぼすけな僕の母親代わりをしてくれてるというわけだ。
「千博~、もうちょい寝たい…。」と、慈悲を求めてみたが、「だめ!」と、あっさり却下された。
「はいはい。起きますよ~だ。」とは言ってみたが、まだ起き上がってはいない。
「ちゃんと来なよ。」一方的に告げられて、電話を切られた。
「う~ん……さて、起きるかな…。」
携帯をベッド脇に置いて、洗面所に向かった。電源を入れたテレビから、天気予報が流れている。歯磨きをしながら部屋に戻って、視線をテレビに向けて、
「今日は晴れか…。」と、呟いた。
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