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「ユージ?」
ユージがいない。
聞きなれた低い声が届かない。
耳に届くのは、不規則な心電図の音と、騒がしく話す先生たちの声だけ。
「ゆーじ」
もう一度名前を呼ぶのに、誰も応えてくれない。
後ろで、ユージのお母さんが崩れ落ちたのが気配でわかった。
呆然と立ちつくしていると、押し殺すことのできないお姉ちゃんの嗚咽が聞こえてくる。
お姉ちゃん……泣いてる?
考えてみれば、私はいつも顔を上げているお姉ちゃんしか知らない。
私の中のお姉ちゃんは、いつだって肩をはって前をみている。
『姉ちゃんが泣いてるの、初めてみたか?』
泣くことも、崩れることも、喚くことも出来ない私の耳に、ようやくユージの声が聞こえた。
壊れかけた人形を扱うように、ゆっくりと首を動かせば、声の聞こえた先にやっとユージが見える。
けれどその姿は、さっきまでとは比べようもないぐらい薄く透き通っていた。
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