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息を呑む私を知らないふりで、ユージが静かに言葉を続ける。
まるで、周囲の混乱なんて他人事のように。
『オレは、知ってたよ。お前の姉ちゃんの泣き顔』
「……え?」
ユージの言葉の真意をつかめず首を傾げると、ユージが唇だけで笑った。
『お前がさ、姉ちゃんとこ飛び出して、オレんとこに泣きながら走ってきた事があったろ』
遠い昔にあったことのように思うけれど、それはまだ記憶に新しいことで。
思い出そうとすれば、心で思った1つ1つの言葉だって鮮明に浮かんでくる。
『チサには言ってなかったけど、その後すぐに、姉ちゃんと話しをしに行ったんだよ』
「うそ……」
全く知らなかった。
あの日といえば、とにかく私は泣きじゃくって話しにならなくて。
ユージが入れてくれた不味いココアを飲んで、疲れて眠ってしまったのを覚えてる。
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