思い出の名前

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 急ぐ気持ちをもて余す新幹線の中で、不覚にも私は眠ってしまったらしい。  ずっと緊張していた疲れか、気がつけば夢を見ていた。  懐かしい夢。  忘れもしない。  晩春、五月雨の日の夕暮れ。  まだ中学生だった私は、校舎の裏で泣いていた。  といっても、あの頃は毎日のように泣いていた気がする。  両親が、事故で亡くなったからだ。  私は恵まれている、と皆がいった。年の離れたお姉ちゃんが、ちゃんと私の面倒をみてくれるから。  同じクラスに、施設育ちのユージがいたのも、大きかった。  私は泣けなかった。  皆の前で泣けない。だから涙が浮かんだときには、死に際のネコのように、人から隠れて泣いていたのである。 「何やってんだよ」  だからその日もたまたま人のいない校舎の裏に来ていただけで、そこがユージのサボり場なんて知らなかった。  ……思えば、奇妙な縁だったよね。ユージ。
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