思い出の名前

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 非常出口の小さな階段に座り込んでいた私は、落ちてきた影を見上げて口を開いた。 「泣いてるの」  他にどう説明していいのかわからずそう答えると、ユージは肩をすくめてその場に座り込んだ。 「あっそ」  それっきり、ユージは何も言わなかった。  いま思えば、ユージは私が泣いている理由を分かってたんだと思う。  それでも、ユージは何も言わなかった。  泣くな、とも。  どこかに行け、とも。 『お前の気持ちはわかるよ、でもユージを見てみろ。アイツだって辛いんだ。強くなれ』   あぁ、これは担任の言葉だ。  でもユージは、お前の気持ちはわかるなんて、安い慰めも言わなかった。  それは、「泣いていいよ」と許されているような気さえして。  いつも人に聞こえないように声を噛み殺していた私は、その日初めて、大声で泣いたのだ。  いまも蘇るのは、薄く半透明なひさしに落ちる、雨音。  落ちた雨垂れが、地面を跳ねて足にかかった冷たさ。  あの日から、私の泣き場所はそこになって。  いつからか、ユージの傍に変わっていた。
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