思い出の名前

5/29

7354人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
 車内を流れる到着のアナウンスで、目が覚めた。  うっすらと浮かんだ涙を乱暴に拭って、席を立つ。  昔を振り返ってる場合じゃない。  絶対、ユージを助けるんだ。  新幹線を一歩でれば、蒸すような暑さで、目を細める。    ひとまず駅から出て、銀行でお金を下ろして、タクシーを捕まえた。  土地勘のない私には、この住所がここからどれぐらい離れてるかが、わからない。  ちゃんとユージに聞いてくればよかったなぁ。  ……いや、ユージがちゃんと説明するべきだよねっ。  帰ったら文句いおう。元気になったら、新幹線代とタクシー代も請求するんだ。  元気になったら。絶対に。 「ちょっと走りますけど、高速にのってもよろしいでっか?」  独特のイントネーションで喋る運転手さんに、「お願いします」と頭をさげる。 「出来るだけ、急いでください」  どれぐらい時間がかかるのか、怖くて聞けなかった。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7354人が本棚に入れています
本棚に追加