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とにかく、時間がないことに変わりはない。
焦る心を押さえて携帯の時計を見た瞬間、玄関のドアが開いた。
早いな、と思ってユージのお母さんを見れば、それもそのはずで、さっきと全く同じ格好をしている。
薄い化粧に、ただ後ろで適当に結ばれた髪。
服の上にはまだエプロンを着けたままで、足元はサンダルを履いただけ。
何を仕度したのかと思ってふとドアの向こうを覗けば、娘さんが心配そうに母親を見守っていた。
「あの……、娘さん、いいんですか?」
思わず訊ねると、お母さんは躊躇いながら小さく頷く。
「簡単に、説明してきました。もうすぐ旦那も帰ってきますし……」
小刻みに震える手は、何に怯えているんだろう。
「すべて、帰ってから家族に説明します」
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