思い出の名前

29/29

7354人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
 わかることは、1つだけ。 「それでも、来てくれたから……」  サンダルにエプロンで、取るものも取らず。  それだけが、いま信じられる全てだから。 「だから、今度は逃げないで……、ちゃんとユージに向き合ってあげてください」  私の言葉に、お母さんは何も返しては来ない。  ただその細い肩が小さく震えたので、私はそっと横をむいて目を反らした。  この人の心は、ユージの命に届くのかな。  そもそも「愛してる」なんて、どうやって言葉にしてもらえばいいの?  見せかけの、ただ言って貰うだけじゃ届かない……。  時間はただ過ぎていく。  ユージには、時間が無い。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7354人が本棚に入れています
本棚に追加