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正直に言って、葛藤に付き合っている時間はない。
私は声をかけることなく、すぐに目の前の扉に手をかけた。
「ユージ」
そっと声をかける。
横たわる体は動かないけれど、かわりに宙に浮かぶユージが振り向いた。
連れてきたよ、と心の中でつげる。
「ゆうじ……」
私の後ろから病室をのぞきこんだお母さんは、そう名前を呼びながらユージに歩み寄った。
『よく、連れてこれたな』
私にだけ聞こえる声で、ユージは驚いたように呟く。
『絶対来ないと思った』
そういって、困ったように鼻の頭をかいた。
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